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『イントラプレナー秘話~社内起業/新規事業を成功させるポイント~』レポート

2019年1月10日

イベントInfo

未来創造ミートアップ15

イントラプレナー秘話〜社内起業/新規事業を成功させるポイント〜

企業内で、やりたい思いを成就させたくないですか?
成功するまで事業を継続させ、社内起業を成功させるには、企業内で推進すること特有の難しさが存在します。2018/11/29(木)名古屋駅にある(株)デンソーのクラフトベースにて、実際の事業推進者と具体的な内容を共有し、実践知についての気づきを得るための勉強会を開催しました。

 

今回は、『イントラプレナー秘話~社内起業/新規事業を成功させるポイント~』と題して、中部電力の浦野隆好さんにご講演いただきました。

 

中部電力では、学校メール連絡網サービス『きずなネット』を、中部圏を中心に全国に提供しています。法的規制など制約の多い電力会社において、有料ITサービスを社会貢献事業として推進した事例を元に、現場で起きた様々な状況変化に対して、何を考え、どのように対応したかなど、いかにして事業を軌道に乗せたのかについて、1時間以上に渡り、熱く、そして楽しくお話いただいた内容をレポートします。

講師:浦野 隆好氏
イントラプレナーとして、長年、新規事業の開発・推進に従事。ブラザー工業では、世界初となるPCソフト自動販売システム『TAKERU』のソフト開発リーダーを担当。その後、ディスラプターとなった通信カラオケ『ジョイサウンド』の企画およびアジアでの市場調査に携わる。1996年に渡米、シリコンバレーのITベンチャーにて映像圧縮装置のプロダクトマーケティングを担当。2002年の帰国後は、中部電力にて携帯メールを活用した新規事業を展開し、学校メール連絡網サービス『きずなネット』を有料の社会貢献として事業化。現在は、新規事業の企画推進を担う。EMBA。

当日の予定表

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18:30 開場
19:00 第1部イントラプレナー秘話
20:00 第2部ワークショップ

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【目次】

1.3回の大きなピボット

2.新規事業を成功させるためのポイント

1.3回の大きなピボット(※)

※ピボット(Pivot)とは、回転する中心軸の意味で、そこから事業内容やターゲット等を柔軟に変更する意味に使われる。

始まりは電力会社の新規事業参入が続いていた2003年、ITを活用した新規ビジネスを創生したいという思いのもと「携帯クーポンメール」の配信サービスを開始したところからです。 

事業を成功させるための要素として「やりたいこと」「できること」「ニーズのあること」という3要素を揃えていると判断し事業を推進しました。携帯電話を利用したサービスが少なかったこともあり、短期間で大量の登録ユーザーを獲得したが、クーポン提携店との有料契約が取れず、売上が低迷します。

売上確保のため、登録ユーザー基盤を活用したメールリサーチ等の企業向けサービスにピボットします。当時、最大手のネットリサーチ会社ですら東海地方の会員数が数千人程度であったのに対し、その4~5倍の圧倒的な会員数を有していたこと、日本で(もしかしたら世界で)最も早くサービス提供を開始した携帯リサーチのひとつであったことから、メディアを中心に利用が一気に拡大し、売上が急向上します。

市場ニーズをいち早く捉えられたことで、事業として上手く立ち上がることができると思われました。ところが、携帯電話向けの迷惑メールが流行りだした時期と重なり、当時の仕様で大手携帯キャリアのドメイン以外はブロックされてしまうこととなり、メールが届く有効会員数が減少し始めてしまいます。

こうした状況に対して、中部電力は大胆に2回目のピボットを行い、会員基盤という強みに依存しないビジネスモデルに転換します。それまでに構築した携帯メールシステムやリサーチシステムを、そのまま企業に利用してもらう『システム貸サービス(ASP/SaaS)』でした。

このビジネスモデルに転換したことにより、愛知県警察と協同で、事件情報等を地域にお知らせするメールサービスを提供することになります。そして、そのメールサービスの登録者からの問い合わせがきっかけとなり、学校から保護者に連絡事項をメールでお知らせする学校連絡網『きずなネット』が誕生しました。

当初は、社内認知の低さからサービス提供についての理解獲得等の苦労がありましたが、社会的意義の高さから、粘り強く重要性を訴え続け、社内の共感者を増やしていきます。そして、継続の過程で、企業内ソーシャルビジネスという位置付けに3度目のピボットを行い、80万人以上に利用される今の姿となりました。

2.新規事業を成功させるためのポイント

上記の経験から導き出された一つの結論は「成功するまで続ける」ということです。そのためには、「想い」「技能」「ニーズ」そして「期待」という4つのポイントが必要とのことでした。

 

ニーズは相手(顧客)が求めるもので、それ自体の発生は管理できません。自分から見て、偶発的に発生するニーズに対して、想いがあれば行動を起こせます。そして、ニーズを満たすことで相手の期待が高まり、それが更なる自分の想い(モチベーション)の向上にもつながります。また、行動によって経験が増えることで、技能が向上していきます。技能が向上すると、更に高い目標を求めたくなるという形で、強化された想いとなって戻って来るという、正のスパイラルに繋がるのです。

 

そして、こうしたスパイラルを継続することが、確実に成功の蓋然性を高めることであり、ニーズに対して柔軟に行動することが、正しくピボットすることに他ならないのです。

 

事業形態を変えるという3回の大きなピボットは、ほんの2年間の出来事だったと言います。浦野さんは、こうした大胆なピボットを柔軟に実現できたのは、『ピボットの軸がハッキリしていたからだ』と説明されていました。ITを活用した新規事業を立ち上げるという、上位の想い(目的意識)を軸にしていたからこそ、クーポンメールや会員基盤に捕らわれることなく、度重なる困難の度に素早くピボットする事ができたのです。 

 

さらに、ピボットから生まれた学校連絡網という新サービスを継続できた鍵は、新規事業にかける想いについて、組織内(企業内)で共感者を増やすことができたからだとも言われていました。

 

「想い」「技能」「ニーズ」「期待」のサイクルを回し、必要とあれば上位の想いに沿って大胆にピボットをしながら「やり続ける」ことが大切で、一緒に楽しんでいきましょうと締めくくられていました。

 

 

Writing by 石原 佑真